研究開発

A.R.E.技術

A.R.E.処理を施した木材で作られたバイオリン

「A.R.E.」とは、Acoustic Resonance Enhancementの略で、短期間で木材を熟成させ、長年使い込まれた楽器のような鳴りを生み出す画期的な木材改質技術です。温度、湿度、気圧を高精度にコントロールする専用の装置で処理することで、新しい木材をまるで長年使い込まれた楽器のような深みのある音が出る木材へと変化させます。またA.R.E.はその処理過程で薬剤などを一切使用しない、環境面への負荷が低い技術です。

A.R.E.の研究の発端はバイオリンの開発から

A.R.E.の開発は1990年代後半に、ヤマハがバイオリンの製造着手するための研究から始まりました。 バイオリンは製造後200年、300年を経たものが名器と称され素晴らしい音を奏でています。なぜ古いバイオリンの木材はいい音が出るのか、バイオリン製造の研究の一部として「いい音がする木材」の研究と「若い木材で熟成された木材と同等の音質を実現すること」がミッションとして設定されました。 木材は温度や湿度による変化が激しく若い木材には音に角や硬さがあるのですが、年を経って熟成が進むことで木材は変化が起きにくくなり、丸く深みのある良い音を奏でるようになります。この「熟成」が音質向上のポイントの一つだと考え、短期間で熟成を促進させるために化学的な処理や煮沸処理など様々な手法が検討されました。こういった数多くのアプローチの中で、最も安全かつ効率的という結論に達した手段が、「温度、湿度、気圧を精密に制御することによる音質改善」でした。

“いい音”が出せる木材の特長とは

“いい音”が出せるように木材改質を行うためには、感覚的な“いい音”とはどんな物理的性質を持つのかを検証する必要があります。多くのバイオリン奏者によるいい音への評価は「落ち着いた」「音が太い」「熟成された」「暖かい」「粒立ちが良い」といったものでした。これらの感覚的な評価を物理的な性質に翻訳すると「低域のサスティーンの増大」「中高域の立ち上がりレベルの増大」そして「立ち上がり後に耳障りな高域成分がより短時間で減衰する」という音響特性であることがわかってきました。

ではそれを実現している“熟成された木材”とは、どういう性質なのでしょう。

通常木材は繊維質のセルロースと樹脂質のリグニン、そしてそれらをなじませるヘミセルロースという物質で成り立っています。古い木材はセルロースの結晶化が進み、木目の方向に硬くなります。一方でヘミセルロースは減少し、その結果として木の厚みの方向にはずれ易くなります。木目方向に硬く、厚み方向に柔らかくなる。方向性によって物の性質が異なることを「異方性」といいますが、木材も異方性が高まることによって、音が良くなる、つまり弾いた瞬間のレスポンスが良く、低域が伸び、高域が速く減衰するという特長が強まります。熟成された木材のもつこの性質に注目しA.R.E.技術は開発されました。

下記動画では通常の板とA.R.E.処理後の板とでの音の違いをお聞きいただけます。(ヘッドホンなどを利用いただけますと、違いをより明確にお分かりいただけます)

動画中で案内されている演奏例は、こちらのページの動画からお聞きいただけます。

A.R.E.処理の概要

A.R.E.処理では、まず筒状の金属製圧力容器の中に木材を入れ、内部温度、湿度を管理し、さらに段階的に圧力を変化させて処理を行います。木材の経年変化に必要な時間に比べれば驚くほど短時間で処理を行うことができます。

処理の中でも特に重要なのが、温度、湿度、気圧の高精度なコントロールと、最適な処理の量を設定することです。長年の経験とノウハウから楽器としての「いい音」と耐久性を兼ね備えた最適値を設定し、緻密にコントロールしながら木材を処理します。

では木材はいったいどのような変化をしているのでしょうか?

そもそも新しい木材には「高次倍音(10KHz以上の耳障りな音)が出過ぎる」という問題がありました。A.R.E.処理による木目方向に硬く厚み方向に柔らかくなる変化は、低音域の音の伸びを増大させ、中高域周波数帯の立ち上がりを大きくすることによって音の抜けや粒たちを良くする一方で、耳障りな音を抑えることができ、落ち着いた心地よい音色を響かせることをできるようにします。

こうして新しい木材はまるで年月を経た木材のような成分へと変化していくのです。

適用例

A.R.E.技術はバイオリンをはじめ、アコースティックギター、エレクトリックベースなどの木製楽器に採用されています。またヤマハ銀座ホールのステージにもA.R.E.技術を応用した床材が採用されています。ホールの床は楽器の振動が伝わりやすく、ホール床の素材が響きに大きく貢献しています。

A.R.E.技術は木を大切にする技術です。木は加工しやすく、軽く、計画的な植林や森林管理により持続可能です。しかも木は構造的に異方性に富んでおり、楽器に適した素材です。建材やスポーツ用品など、かつて木材で作られたものが次々と新たな素材に置き換わっていく中で、いまだに多くの楽器が木で作られている理由がそこにあります。

A.R.E.処理を施した木材で作られたアコースティックバイオリン、Artida(アルティーダ)『YVN500S』 A.R.E.処理された木材で作られたギター Lシリーズ A.R.E.技術を応用した床材で舞台床を作ったヤマハ銀座ビルのヤマハホール

(写真左)A.R.E.処理を施した木材で作られたアコースティックバイオリン、Artida(アルティーダ)『YVN500S』

(写真中央)A.R.E.処理を施した木材で作られたアコースティックギター、Lシリーズ『LL36ARE』

(写真右)A.R.E.技術を応用した床材で舞台床を作ったヤマハ銀座ビルのヤマハホール

受賞

第3回ものづくり日本大賞 優秀賞
http://www.monodzukuri.meti.go.jp/library/2009_04.html
平成23年度全国発明表彰 第一表彰区分 特別賞「朝日新聞発明賞」および発明実施功績賞
http://www.yamaha.co.jp/news/2011/11052601.html

掲載履歴

日経ものづくり(2008年7月号、多視済済にて)
ギターマガジン(2008年4、5月号)
アコースティックギターマガジン(2008年夏号)
音遊人(みゅーじん 2008年12月号)
日経産業新聞(2008年5月21日) 他

関連サイト・ニュースリリース

アコースティック バイオリン:Artida(アルティーダ) YVN500S

アコースティックギター:Lシリーズ

2009年10月21日
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2009年7月16日
木材改質技術『A.R.E.』が、第3回「ものづくり日本大賞」優秀賞を受賞
- 木材の経年変化を促進し、楽器の音色を改善するヤマハ独自の技術 -

2008年5月20日
熟練の職人によるクラフトマンシップと最新技術が融合
高級手工アコースティックギターに自社特許の木材改質技術を応用して、ビンテージサウンドを実現
ヤマハ アコースティックギター『L36ARE』『L26ARE』シリーズ

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A.R.E.処理技術 用語集

A.R.E.処理技術 用語集 Arrow_right_small

A.R.E.処理技術の用語を解説します。
・セルロース
・リグニン
・セミヘルロース
・高次倍音
・(音の)立ち上がり
・アコースティックギターなど。

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