研究開発

CP1 画期的なステージピアノ(VACM音源)

電子ピアノとエレクトリックピアノ

電気を使ったピアノには、大きく分けて電子ピアノとエレクトリック(電気)ピアノの2つがあります。電子ピアノはFM音源やPCM音源といったデジタル音源を内蔵し、電子的に音を発生させています。一方エレクトリックピアノは実際にハンマーで弦などを叩いて振動させ、その音をマイクで拾い、アンプで増幅することにより音を鳴らしています。

前者の電子ピアノには、音源がデジタル化されたことによる本体の小型化、軽量化などの利点がありましたが、FM音源の場合は音づくりの難易度が非常に高く、またPCM音源の場合は事前にサンプリングされて用意してある音を利用していたため、エレクトリックピアノに比べて表現力の幅に課題が残りました。エレクトリックピアノのよう自然な音を鳴らしたい、しかし電子ピアノのような利便性も持たせたい…そんな夢のような楽器を追い求めた結果、ついに完成したのがCP1なのです。

新開発のVACM音源

CP1は従来の電子ピアノ音源の主流である「サンプリング方式」では得られなかった、質感や音量のなめらかな変化を実現するため、「VACM」という新開発の音源を搭載した画期的なステージピアノです。

このVACMとはVirtual Acoustic & Circuitry Modeling の略で、従来のサンプリングだけでは難しかった滑らかな音の変化を実現する技術です(注1)。音の正確な再現をサンプリング技術で行い、表現をモデリング技術で行うというハイブリッド方式を採用することで、今まででは難しかったエレクトリックピアノの音色も再現することに成功しました。

そもそもエレクトリックピアノでは、「ハンマーの硬さ」「打鍵の場所」「振動面とピックアップの距離」「アンプの回路の癖」など、複数の要素が複雑な絡み合いをして音が作られています。今回開発したVACM音源では、これら音づくりに必要な要素をひとつひとつモデリングすることにより、まるで往年のエレクトリックピアノを弾いているかのように自然な音を作ることが出来ます。

理想の音を求めて

このVACM音源の開発がスタートするきっかけには、「機能ではなく音質を追及したい」という開熱い想いが存在しました。

具体的な課題となったのが、エレクトリックピアノの名機として誉れの高いCP80などの音を再現することです。もちろん音をサンプリングして利用する AWM音源(一般的にはPCM音源と呼ばれているサンプリング音源方式のヤマハによる発展形。PCM音源に対してフィルターなどのダイナミクスの表現に優れている)を使えば難しい問題でもないのですが、それでも演奏としての表現力に制限が生まれてしまいます。一般的にAWM音源やPCM音源ではダイナミクスは鍵盤の押鍵速度に対してサンプリングデータを切り替えることによる段階的な表現しかできないためです。

そこで研究チームはAWM(PCM)音源ではできないことを成し遂げるために、新しい音源を実現する方法を探し求め、エレクトリックピアノに関しては音・発音モデルに念入りな検討がなされました。多くのエレクトリックピアノでは磁性体でもある発音体(タインと呼ばれます)の振動を磁気ピックアップで検出して電気信号に変えます。磁気ピックアップの発生する磁場の中を発音体が横切ることで磁界の変化が生まれそれが電気信号に変換されるのです。磁場は非線形的に 広がっているために発音体の振動も非線形的に電気信号に変換され、それがエレクトリックピアノの音特有の歪んだ音の表現に結びついてます。その歪み方はダイナミクスに対応して大きな変化を遂げます。

そういったダイナミクスに対応したフーリエ変換成分(いわゆる倍音)を徹底的に分析することにより、ハンマーが発音体を叩く位置やダイナミクスによる音の変化が連続的に表現できるようになり、結果としてエレクトリックピアノの音の表現力はこの上なく高まりました。

この発音方式は演算方式とメモリー(サンプリグ)波形による発音の両方のいいところを組み合わせたもので、結果としてAWM(PCM)音源のリアリティーと演算方式が通常持つ滑らかで大胆なダイナミクスや音色変化の両方を併せ持つ音源が出来たのです。

嘘のような、本当のこだわり

音に対しての妥協なく開発が進んだVACM音源では、通常であれば信じられないような部分まで音の再現性の追求が行われました。それは、当時のエレクトリックピアノに搭載されていたアンプや回路、ケーブルの分析とモデリングです。例えばあまりにも古いローズは博物館に所蔵されているものしか現存しないため、その音をサンプリングすることが出来ません。そこで当時の回路図からアンプ部を実際に組み上げ、そこからモデルを作成しました(下画像左)。またアコースティックピアノは実際に叩いていない部分が共振する「ダンパーレゾナンス」という効果が発生しており、その音も省くことなく再現しました。

復元したアンプと探し出した当時のエフェクター

左:設計図から復元した、当時のアンプ。 右:楽器屋を巡って探し出した当時のエフェクター

アンプの再現で問題となったのが、実際にはキャパシターやケーブルでエレクトリックピアノの音が変わるという現象です。筐体に接続されるエフェクターなども同様でした。そこでエフェクターやケーブルは当時のものを中古楽器店などで調達し(上画像右)、それを参考にモデリングを行いました。ケーブルに至っては閉鎖されるスタジオを巡り、当時のケーブルを捜し求めたりもしました。

このようにCP1ではアンプやスピーカーのモデリングにもVACM音源の技術を応用しており、またエフェクトのほとんども同様の技術で作られています。また、アコースティックピアノではダンパーレゾナンスと言ってダンパーペダルを踏んだときに弦同士が共振する効果のモデリングがなされいます。ピアノタイプパラメータに現れるDXEP1~4ではDX7のLSI内部での信号処理演算をソフトウェアエミュレーションすることで演算合成でないと出来ない広いダイナミックス表現を得ています。つまり、CP1はその音源、音処理系の全体がVACMで構成されているのです。

地道な研究開発と、ステージピアノへの愛から生まれた次世代のシンセサイザーCP1。研究開発の情熱が注ぎ込まれた究極の音、VACM音源をぜひ体験してみてください。

(注1)

CP1/5/50 の狭い意味での「音源部」を説明するために、同機種群の製品説明では Spectrum Component Modeling という言葉で説明しています。

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